変遷
「まぎ、参りました。」
「同じく冥、参りました。」
跪き、頭を下げる。
地獄様。彼の方は我らを支配する立場にある方だ。紛うことなき暴君でありつつも冷徹であり公平な存在。先代を殺せば殺したものが次代の地獄様になるシステムだがここ数百年は入れ替わることもない。圧倒的な強さを誇る。
その地獄様がおられる部屋。生の気配のない一室。呼ばれたことがないわけではない。それでも、入るたびにこの部屋は何か居心地の良さと命を握られている感覚に陥る。
冥はこの部屋を不気味と言って厭う。それは彼女が元人間だからだろう。本能的な忌避感はきっとどこまでもまとわりつくだろう。
そんなことを考えていたら彼の方の声が響く。
「構わない。表を上げろ。」
「「はっ。」」
今回の仕事もまたどうせ引き込みだ。そんな考えで頭を上げるとそこには二人の赤ん坊がいた。
「こいつらは俺と俺の最愛の子供だ。育成をお前たちに命ずる。成長など俺に見せなくていい。興味もない。以上だ。戻れ。」
地獄様はそれだけ我らに言い放ち奥へと戻ってしまった。
「…まぎ。どうする?」
困惑した冥の声がする。
「どうもしない。ただ命じられたことを遂行するだけ」
そういうと冥があきれた顔をした。
「いや、そうじゃなくて名前とか聞き損ねた」
「確かに…、でも地獄様が名付けるとも思えない。」
そう言いながら一人を抱き上げる。
「ううん、それもそうかも。まず名付けるところからかな。」
過去に何度も無茶振りをされているせいか即座に受け入れ、もう一人を抱き上げる冥。
「そう、なるな」
「でも私人間時代も子育てとかしたことないよ。まぎは?」
「あるわけない」
「だよね〜」
そんな話をしながら自分たちの持ち場の方へと歩いていく。
変遷の始まりだ。